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脚本:実践恋愛心理学

実践恋愛心理学

「実践恋愛心理学」…単発物コメディ

脚本:西条道彦

昭和38年10月22日[30分物(テレビ朝日)]…300円

 「夫を成功させる法」シリーズの作品で、大学教授の夫(菅原謙二) を成功させようとする妻(中原早苗)が悪戦苦闘の末、成功させるが……果たして人間の成功とは何だろうか? 

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脚本:実践恋愛心理学

 「実践恋愛心理学」(イントロ)
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  「夫を成功させる法」シリーズ


  (夜9時30分〜10時(単発30分ドラマ)昭和38年10月22日(火)放送)


 タイトル『実践恋愛心理学』


 脚      本  西 条 道 彦
 演      出  勝 田 康 三
 制      作  山 本   嵯
 監      督  佐 伯   清
 制      作  NET(現テレビ朝日)


 登場人物


 島 村 行 男 (35)………菅 原 謙 二
   〃  琴 子 (26)………中 原 早 苗
 坂      本    ………本 郷   淳
 助手・西園寺行友  ………睦   五 郎
  〃 ・長島 洋子   ………桂   三保子
  〃 ・尾崎 三郎   ………桔 梗 恵二郎
 水 原 先 生    ………飯 田 はるえ
 琴子の友人青野   ………葵   真木子
  〃     藤田   ………花 形 恵 子
  〃     吉田   ………小松原 庸 子
  〃     土橋   ………湯 沢 マチ子
  〃     毒島   ………三 輪 幸 子
  〃     野村   ………伊 奈 夏 子
  〃     権藤   ………桜   由 美
 そ   の   他


 1 大学の全景(秋・昼)        
                     

 2 研究室のドア            
   『児童心理学研究室』のプレートがかか
   っている。             
                     

 3 研究室               
   白衣姿の島村行男助教授(35)が四歳前
   後の子供数人を相手にテストを行ってい
   る。                
   机上には定型遊具(はめ絵、絵あわせ、
   木製動物等)、素材遊具(積木、紙、粘
   土、絵の具、  はさみ)運搬遊具(自
   動車、電車、ボール)、  模倣遊具(
   ママゴト、人形、電話)等が並べられて
   いる。               
   まるで仲間と遊ぶような調子で、島村自
   身子供のような人物である。     
 島村「はい、じゃ今度は僕ね……僕は、好き
  なもので遊びなさいっていわれたら、この
  中のどれとどれで遊ぶ? ふうん、その次
  にはどれがいい? あそう(隣の子に)じ
  ゃアタチは?」            
   子供たちは主として素材遊具を選ぶ。 
   それを傍で助手Aがメモしている。  
   助手の長島がくる。         
 長島「先生、お電話です。龍文社とか……」
 島村「……あ、そう」          
   急に困惑顔になり、電話のほうへ歩く。
                     

 4 龍文社(出版社)          
   編集者の坂本が電話している。    
 坂本「もしもし、あ、島村先生でいらっしゃ
  いますか? 坂本でございます」    
                     

 5 研究室               
   島村は口下手で、まるで人ズレしていな
   い子供のような口調である。     
 島村「あの……あれは、お断りしたのに……」
 坂本の声「ええ、でも先生、もう一度お考え
  なおし頂けませんでしょうか、お願いしま
  すよ」                
 島村「困ったなあ……あの、ここは研究室な
  んです。アルバイトの話は……」    
                     

 6 龍文社               
 坂本「ええ、実はお宅のほうへ伺おうと思っ
  て、先程からお電話してるんですけど、ど
  なたもいらっしゃら ないご様子で……」
                     

 7 研究室               
 島村「いない? ああ、今日は同窓会だとか
  いってたから……」          
                     

 8 銀座のレストラン          
   『桜川高校同窓会様御席』の札のかかっ
   た一角で、十人ぐらいの若奥様風が談笑
   している。             
   島村琴子(26)とそのかつての友人たち
   である。              
   話題はそれぞれ数人ずつのグループに分
   かれている。            
 青野「とにかくお坊ちゃん育ちだから、うち
  のになんかまかしといたら商売にならない
  のよ。やっぱり男ってダメね、女がリード
  しなきゃ……」            
 藤田「そういえばそうね。うちの主人だって、
  私が重役の奥様と仲良くしてなかったらま
  だ課長どころか係長にもなっていないと思
  うわ」                
 吉田「だけど、女があまり出しゃばるってい
  うのも……ねえ先生?」        
 水原先生「そうねえ、私たちは女だてらにな
  んていう言葉を教訓として聞かされてきた
  し、妻は夫に従うのが当たり前だと教え込
  まれて育ったんで、何ていったらいいかわ
  からないんだけど……でもホラ、南ベトナ
  ムの……」              
 土橋「ああ、ゴ・ジンヌー夫人……」   
 水原先生「そうそう、その人。もちろん善し
  悪しは別だけど、女性として、東洋的因習
  のカラをやぶったってことで、たしかに女
  性は変わりつつあるって感じるわね」  
 青野「そうなのよ、それが新しい生きかたな
  のよ」                
 吉田「そうかしら(と否定的な表情で友人達
  の同意を求める)」         
 青野「ともかく、すべからく妻は夫をリード
  すべしっていうのが私の人生哲学だわ」 
 藤田「哲学っていえば、琴子さんの旦那様、
  たしか哲学者だったわね?」      
   と離れた席の琴子に声をかける。   
  琴子は別のグループで毒島、野村、権藤と
  話していた。             
 毒島「哲学じゃないわよ、児童心理学よ」 
 野村「今もその話をしてたんだけど、あなた
  知らない? 今新聞なんかで盛んに宣伝し
  て売り出している『誰でもわかる児童心理
  学』っていう本。あれ琴子さんの旦那様が
  お書きになったのよ」         
 藤田「へえ、本も書くの?」       
 権藤「そうよ。若いけど、その道じゃ権威な
  のよ。琴子さんの大学時代の恩師で、熱烈
  なる恋愛結婚……」          
 青野「そうお……」           
 琴子「あまりパッとしないけどね……」  
 青野「うん、児童心理学じゃやっぱり地味ね。
  恋愛心理学なんかだったらもっと派手なん
  だろうけど……」           
 琴子「ところがなのよ。その恋愛心理学を書
  いてくれっていわれて困っちゃってるの」
 青野「誰に?」             
 琴子「もちろん出版社よ、『誰でもわかる児
  童心理学』が意外に売れるもんだから、そ
  れをシリーズ物にして売りたいから、今度
  は『誰でもわかる恋愛心理学』っていうタ
  イトルで書いてくれっていうの」    
 青野「いいじゃない……」        
 毒島「ねえ、私もぜひ読みたいっていってる
  のよ」                
 琴子「だってあなた、主人の専門は児童心理
  学よ。恋愛なんてまるで関係ない人なの」
 野村「(冷やかす)あらそうかしら?」  
 土橋「ねえ?(と頷き合う)」      
 青野「そうだ琴子さん……あなた手伝ってさ
  しあげたら?」            
 琴子「………」             
 青野「だってあなた、大学時代に小説書くた
  めだっていって、銀座のバーでホステスや
  ってたじゃない。そのおかげで何とか新人
  賞っていうのをとったぐらい だし、心理
  学を専攻したんだもの、条件としてはピッ
  タリよ」               
  琴子「まさか……第一そんなこといったっ
  て、主人が受けつけっこないわよ。子ども
  にしか興味のない人なんだから……」  
 青野「それをリードしてやらせるのがあなた
  の腕じゃない、冒険させるべきよ。今は何
  やったってまず有名にならなきゃ損な時代
  なんだから、ねえ?」         
 藤田「そうね、恋愛心理学ならベストセラー
  になるかもしれないしね」       
 青野「そうよ。やってあげなさいよ。有名な
  小説家だって弟子に代筆させる時代ですも
  の。奥様が手伝うのぐらい当たり前じゃな
  い」                 
 琴子「でもそんな……」
 青野「ダメねえ。あなたは昔は流行作家を夢
  見ていたけど、女って結婚した相手によっ
  てこうも変わっちゃうものかしらねえ」 
 琴子「……(こたえた)」        
                     

 9 島村家・応接間(夜)        
   和服の島村が、坂本を前にしてうまく断
   れず、困惑の態である。       
 島村「しかし……何度もいうように僕の専門
  は……」               
 坂本「ええ、無論よく承知しております。然
  し、『誰でもわかる児童心理学』が当たっ
  たのはですね、先生の文章がやさしくて、
  しかも説得力があって、素人にわかりやす
  いという点にあったと思うんです。むずか
  しい学問を楽しい読み物にしてわからせて
  くださるのが先生のご本の魅力なんです。
  ですからほかの先生がたじゃダメなんです。
  とかく学者先生というのは普通に書けばわ
  かるものを、わざと難しい言葉を使って書
  くという傾向があるらしくて……」   
 島村「まさか……」           
 坂本「いや、そうなんですよ」      
 島村「とにかく……恋愛なんて、僕は経験も
  ないし……」             
 坂本「そうですかあ? )奥様とのお噂は伝
  え聞いておりますよ」         
 島村「(慌てる)いや、妻は非常に積極的な
  女性でして……僕はただ……」     
                     

 10 同家・玄関             
   ドアがあき、琴子が帰ってくる。   
 琴子「ただ今……」           
   脱いである靴をみて眉をひそめ、応接間
   に通じるドアへ目を移す。      
 島村の声「ああ、帰った?」       
   とあたふたと出てきてドアをしめ、子ど
   もが母親に対するごとく、      
 島村「来てるのまた……たのむよ」    
                     

 11 応接間               
   坂本、いやな奴が帰ってきたという表情。
   琴子、はいってくる。        
 坂本「ああ奥様、お邪魔しております」  
 琴子「いらっしゃいませ(ソファーに座る)」
   島村はドアのところに立って見ている。
 琴子「お引き受けします」        
 坂本「は? あの、書いて下さるんですか?」
 琴子「はい」              
 島村「(たまげて)琴子……恋愛心理学だよ」
 琴子「はい(しっかり頷く)」      
                     

 12 タイトル              
 『実践恋愛心理学』以下──       
                     


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