【塾長コラム】塾生へのアドバイス集
新コーナー!塾生へのアドバイス集
最近、私がホームページに無沙汰をしていたため、病気でもしているのではないかと気遣うメールをいただく。塾生がふえてそちらに力をいれているためつい横着をして無用なご心配をかけてしまったが、時間をさいて挨拶がわりに何かを書こうと思い、他の人にも参考になる「塾生へのアドバイス」を取り上げて紹介していこうと思う。 |
1.新鮮さと「受離破」について
テキスト「テレビドラマ創作講座」にくわしく書いたが、日本の徒弟制度を説明する言葉に「受離破」がある。ひとことでいうと、師の物を受けろ、受けたら離れろ、それから勝手に破れて自分流に、というものである。
シナリオも、ト書き、台詞ともに簡潔的確な表現を求められる。もちろんその土台となるプロットも同じで、ぶくろ塾ではまず2枚あるいは5枚のプロットから始めてもらっている。
塾生が送ってきたプロットを添削して指導するわけだが、最近私の添削を頑固に無視して書き直してくる人があらわれて手をやいた。何回かのメールのやりとりの末、彼女は悪気ではなく、私の直した文章をそのまま使用するのはいけないことと解釈していたとわかった。盗作を避けようとのまじめさだった。
ありふれた短文を「簡潔的確に書く」となればさほど幾通りもの文章にはならない。書きなれた人たちならほとんど誰もが同じような文章になるはずである。受の段階では離や破を求めていないのだから素直に受けてもらわなければ入塾の意味がない。そこで私は作者に以下のように受離破を説明した。
戦国時代から江戸初期にかけての武将に古田織部という人がいた。千利休に師事した茶人でもある。彼は利休を継承しながらも、まったく違う大胆奔放な作風の「織部焼」で大成したことで知られる。受離破の手本のような人物といえる。
最初から個性的な脚本を書こうと思う人の気持はよくわかるが、テーマや内容の新鮮さならその通りでも、基礎的な文章表現やシナリオの仕上げ方となるとちょっと違う。
小津安二郎監督を尊敬する映画人は国内外に多い。名作「東京物語」をテキストにした人は私だけではない。もちろん素材やテーマ、時代は自分のものだが作法をまねた。小津さんの「時々あたらしがり屋があらわれるが、いつの時代も結局はオーソドックな作り方にもどるんだよ」という意味の言葉を紹介したい。
最近、テレビで放送されるマラソン競技で、ペースメーカーというのをよく見かける。高度なレース運びをさせるためスタートから均等なペースで先頭集団を引っ張るランナーのことだが、全長42.195キロの内30キロあたりまで走っただけで消えてしまう。そこから先が選手たちの戦いになる。いわば私の役目はこのペースメーカーであるから、あせらず遅れずペースをつかみながらついてきてほしい。そこからが離であり破であり、個性を発揮する場なのですと。